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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)130号 決定

抗告人 関定一

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告理由。別紙記載のとおり。

二、当裁判所の判断

記録編綴の甲第一号証(仮処分決定)、同第二号証(仮処分執行調書)、同第九号証(検証調書)、同第十一号証(換地予定地指定通知書)によれば、本件仮処分の目的たる東京都大田区仲蒲田三丁目十二番の八宅地二百七十一坪五合一勺には仮処分執行の日である昭和二十六年五月十四日より同年十二月十二日までの間、抗告人主張の建物A及び既に収去された建物Eのほかには建物ということのできる物件のなかつたことが認められ、これらの証拠と記録編綴の甲第三号証から第八号証まで(点検調書)、抗告人に対する換地予定地指定通知書写(記録第九十六丁)及び移転命令書写(記録第九十八丁)並びに原審における申立人小島富次郎審尋の結果とを綜合すれば、

(イ)  抗告人は前記仮処分の執行のあつた昭和二十六年五月十四日より後、仮処分命令に違反して右土地上に抗告人主張の建物F、Gを建築したほか抗告人主張の建物CDの移築前の建物をも建築したこと、

(ロ)  右土地一帯には特別都市計画法による土地区劃整理が行われ、同法第十三条、第十四条の規定により、仮処分債権者所有の右土地に対して昭和二十八年八月十二日換地予定地の指定通知があり、同時に抗告人に対しても係争借地権に基き使用収益をなすことのできる換地予定地の範囲として仮処分債権者に指定通知された右換地予定地の全域が指定通知されたこと、

(ハ)  右換地予定地は、いわゆる現地換地であつて大体従前の土地と同じ位置に指定されたのであるが面積に若干の減少があり、境界にも部分的に符合しない箇所があつたため、前記各建物の内、建物F、Gはそのままの位置で換地予定地内に入るけれども、建物CDの移築前の建物はいずれも一部分が換地予定地の境界外にはみ出すことになつたので、抗告人はこれを換地予定地内に移築して現在のCDの建物としたこと、(この点が現状変更を禁止する仮処分命令に違反するか否かの点は別問題であるが、たとえ移築の前後を通じ建物の同一性に変動なく、移築それ自体としては仮処分で禁止された現状変更に当らないとしても、移築前の建物の建築がすでに仮処分命令に違反しているときは、移築後の建物も仮処分命令に違反して建築された建物に該当することは当然である。)

(ニ)  その後抗告人は更に右換地予定地内において建物Dに接続して抗告人主張の建物Dを建築したこと、等の事実を認めることができる。右認定に反する抗告人の原審における審尋の結果は採用することができず他に右認定を左右することのできる資料はない。

ところで換地予定地の指定通知があつたときは、従前の土地の所有者及び関係者は、換地予定地については従前の土地に有する権利の内容たる使用収益と同じ使用収益をなすことができる反面、従前の土地についてはその使用収益をなすことができなくなるのであるから(同法第十四条第一項)、従前の土地の使用関係についてなされた仮処分は、一面従前の土地について現実にこれを執行することはほとんど不可能であり、他面換地予定地の上に効力を及ぼすのでなくては結局仮処分の目的を達することはできないといわなければならない。従つて従前の土地の使用関係についてなされた仮処分の効力は、従前の土地に専属するものを除いては、換地予定地にも及ぶものと解すべきである。そうして本件仮処分は仮処分債権者たる土地所有者の仮処分債務者たる土地占有者(抗告人)に対する土地明渡請求権を保全するため、債務者に対し、前記従前の土地の占有を解きこれを執行吏に保管せしめ執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許すことを内容とするものであること前示甲第一号証及び原審における債権者小島富次郎審尋の結果により明らかであるから、右仮処分はその効力を前記換地予定地にも及ぼすものというべきである。もとより従前の土地と換地予定地は現実の土地を異にするのが普通であり、従前の土地の占有と換地予定地の占有とは必ずしも同一ではないから、仮処分における保全の必要の程度についても両者の間に差異を生ずることが予想されるけれども、それは事情変更による仮処分取消の事由として考慮すればよいことであつて、これがため従前の土地に関する仮処分が換地予定地についてなんらの効力をも及ぼさないということにはならない。

以上のとおりであるから、抗告人が仮処分の目的である前記従前の土地につき前記建物FGの建物及び建物C、Dの移築前の建物の建築をし、更に換地予定地の上に前記Dの建物を建築したことは前記仮処分に定める現状変更禁止の命令に反するものということができる。従つて民事訴訟法第七百三十三条第一項の規定により抗告人に対し本件換地予定地から前記建物CDDFGの収去を命じた原決定は相当で抗告理由は採用の余地なく、記録を精査しても、原決定には違法の点がないから、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川喜多正時 小澤文雄 位野木益雄)

(別紙)抗告理由

一、原決定は凡て認定を誤つている、

二、本件仮処分を受けた敷地は二百八十坪の広大な土地であつて、且終戦にならない前である昭和二十年四月十五日戦災によつて焼野原となつたのを、

仝年七月抗告人が相手方の同意を得て別紙第一図面表示の土地(関定一が相手方から借りた土地は始めは二百八拾坪で第一図面表示の通りの土地であつたが、昭和二十八年八月十二日東京都の換地命令によつて、別紙第二図面表示のように変更せられた)の上に(A)B(c)(D)(E)(F)(G)のように建物を建築した。所が東京都の区劃整理による換地処分により別紙第二図面のような土地となつたので第一図面(D)及び(c)の建物は夫々第二図面(D)及び(c)に移転し、(A)(B)(E)(F)(G)の建物は其儘存置した。

従つて之等の建物は抗告人が為した昭和二十六年五月十四日の仮処分執行当時には已に存在していたものである。

相手方は「第一、第二号証によると、執行当時には(A)(E)の建物の外は存在しなかつた事が明かである」と主張し又「第九号証検証調書添付図面によれば昭和二十六年十二月十二日当時に於ても本件地上には右二棟((A)及(E))の建物以外の建物は存在しなかつた事が明瞭である)と主張しているがこの調書のみでは(c)(D)(F)(G)の建物が本件仮処分当時存在していなかつたと云う事実は明確にならない。何となれば此等の建物は二百八十坪と云う宏大な土地の中に(A)(三十二坪)(B)(半坪)(c)(六坪)(D)D(二十四坪)(F)(二十九坪)(G)(七坪八合)の群小建物が相当の間隔を置いて分散し殊に(A)と(F)との間は相当の空地であつて(仮処分当時は三間の間があつた)これには一面に鉄材が置いてある。第九号証検証調書添付の図面中に別紙第二図面表示の(F)(D)の建物が表示されていないのは、当時此部分には蒸気使用の汽罐ボイラータンク其他パイプ等家屋に等しい位の大きさの鉄製機械が一面に置かれて居り、而も土地は二百八十坪の宏大な土地であつて、其上に存在する各建物中(A)はやゝ家屋の形をしていたが他の建物は家屋とは名ばかりのやうな粗末なものであつたので、第九号証検証調書中に表示されなかつたものである。右は(G)の建物も右検証調書の中に表示されていないのを見ても明瞭である。

別紙目録中の

(一) 工作物(F)及(G)の築造について

(1)  (F)(G)の建物は昭和二十年以来存するもので相手方の云うが如く昭和二十七年頃築造せられたものでない

(2)  尚(F)の建物は昭和三十二年中多少の手入はしたけれど坪数其他に変更はない。相手方は執行吏が原状回復を命じたと云うているけれど相手方の主張する仮処分は、其目的物とし

一、宅地二百八十坪、二、右地上に存する家屋一棟建坪二九坪の二つしか表示していない。二百八十坪もある地上に其片隅にある僅か二九坪の家屋のみを表示し他の建物は表示しなかつた為表示以外の建物が戦災後幾許もなく建てられた名ばかりの粗末な建物であつて、而も極めて小さい建物であつたのと、土地一面大きな鉄機械で埋つて居た等の関係から執行吏も見逃して仮処分調書の中に記載しなかつたものである。之れは相手方がよく現地を調査せず、軽々しく仮処分命令を得たために生じた間違いであつて、此調書のみを以つて本件他の建物が仮処分当時存在していなかつたと断ずることはできない。然のみならず、右仮処分は昭和二十六年に執行されているのであるが、其後昭和三十二年に至る七年間の長い間相手方は一回の点検もしないで七年後突如点検をしたのであるから、執行吏も七年前の不完全な仮処分調書を照し合はせて現状変更なりや否やを判断することは不可能である。従つて本件執行吏の行為は措信することが出来ない。

(二) (D)の築造及び(D)の築造

(1)  (D)は前述の如く東京都の換地命令に依つて

昭和二十八年に現在場所に旧場所より移転したものであつて相手方の云うように昭和三十年八月築造を始めたものではない。執行吏云々の点については前述の(イ)の(ニ)に述べた通りである。

(2)  右建物は周囲にトタンを張つた事実はあるが、原型を変更してはいない。執行吏云々については前述の通りである。

(3)  (D)も旧場所より移転したものであつて、(D)に含まれているものである。執行吏に付ては前述の通り

(三) (c)の築造

(c)は第九号証検証調書添付図面にも表示されている通り仮処分当時明かに存在していた建物である。が都の換地命令によつて別紙第二図面(c)の場所に移転したもので、昭和三十年十一月下旬建築を始めたものではない。執行吏の行為については前述の通りである。

(四) 炊事場の築造

(E)の建物の跡に炊事場を築造したことはない。

図〈省略〉

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